- アイテム紹介
現代に受け継がれる代表作、モジュール式ブックケース
“Mogens Koch(モーエンス・コッホ) ”という方をご存知でしょうか?
デンマークでの彼は「名の知れたデザイナーであり、建築家であり、教授であり…」と数々の栄誉に輝いた人物の1人ですが、日本での認知度はやや低いという印象があります。そしてご存知の方はきっと、デンマーク好き・家具好きの方が大半なのではないでしょうか。
ともあれ「世間一般的に認知度が低いとなると、どうしても日本国内での評価もあがりにくいなあ」というのが正直なところ。微力ではありますが、本記事を通して彼とその素晴らしい作品を知るきっかけとなったら嬉しいです。
代表作の1つ、モジュール式ブックケース
こちらは、コッホがデザインしたFDBモブラーのブックケースです。一見何の変哲もないデザインのように見えますが、1944年に発売されたのち、半世紀以上も愛され続けているというから驚きです。
なぜ現代でも廃れることなく受け継がれているのでしょうか。それにはもちろん理由があり、語るだけのストーリーがあります。今回はコッホの経歴をさらいつつ、このブックケースを中心にお話をしていければと思います。
モーエンス・コッホとは?
ひとことで紹介すると、彼は“デンマークモダンデザインの父”と言われるコーア・クリントの弟子であり「 デンマーク黄金期の基礎を築いた一人」だといえます。
◆経歴
1898年 デンマークに生まれる
1925年 Kaare Klintが主任教授を務めるデンマーク王立芸術アカデミーを卒業
1925年 Kaare Klint をはじめ、Carl petersenやIvar Bentsensの事務所に勤務。(〜1932年)
1934年 自身の事務所を設立。
1938年 Eckersberg Medal 受賞
1944年 FDBモブラーでブックケースをデザイン
1950年 王立芸術アカデミー家具科の教授を務めました。(〜1968年)
1963年 C. F. Hansen Medal受賞
1992年 ID Prize受賞・逝去
さらに詳しく経歴をみてみると、コッホは卒業した同年に、主任教授であるコーア・クリントの事務所に入所していることが分かります。これは、コッホがクリントから多大な影響を受けたと同時に、実力も伴う人物であったことが伺えますね。
また、事務所退職後もクリントから学んだ機能主義を原則としつつ、「住宅・増築・家具・テキスタイル・グラフィック・銀製品のデザインや執筆など…」と多岐に活躍。器用な方だったのではないでしょうか。後年はその経験を生かし18年間もの間、教鞭をふるいます。製作だけでなく、後進の指導とデンマークデザイン業界へも貢献をした人物といえます。
なぜ、コッホのブックケースは長年に渡って愛されているのでしょう?
1928年 はじまりは自身の書斎用として
元々このブックケースは、1928年にコッホが“自邸の小さな書斎で使うため”にデザインをしたことが起源と言えます。当時としては画期的であったモジュールシステムを採用し、扉や棚、引き出し等の様々なパーツを用いることで収納物に合わせて調整できるブックケースを設計しました。自分で使うことを目的とした製作であったということもあり、より実際に暮らす上での“使いやすさ”や“機能美”を追求したと推測できます。
1932年 ルド・ラスムッセンでの販売がスタート
自邸でのデザインから、4年後の1932年。妥協を許さない家具作りと伝統的なクラフトマンシップを持つ、ルド・ラスムッセンでの販売がスタート。このブックケースは当時、大変な人気と注目を集めたそうです。
ただ、当時においてもなかなかの高級家具。決して一般の方が気軽に買える値段ではなく、デンマークの人々にとって、コッホのブックケースを所有することは、“成功の証”であり、“憧れの存在”でもあったとも聞きます。
そんなルド・ラスムッセンは140年以上続いた老舗工房でしたが、2016年にあえなく閉鎖。現在は引き続きカールハンセン&サンに受け継がれる形で愛され続けています。
RUD・RASMUSSENS/ルド・ラスムッセン(1869-2016)とは…
140年間以上続いた、今はなき老舗の家具工房。
デンマーク最古であり、妥協を許さない家具作りと伝統的なクラフトマンシップでデンマークモダン家具を牽引した。
また、1944年からは同工房で多くの作品を手掛けた“デンマーク近代家具の父”
コーア・クリントがロゴデザインを手掛け、工房閉鎖まで使われ続けた。
2011年にカールハンセン&サンの傘下に入るも、2016年に惜しまれながら工房閉鎖となった。
1944年 ついにFDBモブラーに登場!
そして、第二次世界大戦も終盤の1944年。ついにFDBモブラーでもコッホのブックケースが発売されます。この時、ルド・ラスムッセンの発売から12年もの月日が経っているのですね。
発売にあたりコッホは、本来持つ基本的な設計理念をそのままに、FDBモブラーの「丈夫で、美しく、機能的、そして手軽な価格」という厳しい開発条件の元、積極的に取り組みました。きっと守るべき質を維持しつつ、バリエーションを抑えて生産効率を高めることで、価格を抑えたのでしょう。
また、サイズもこれまでの760×760mmの腰高まで正方形モジュールではなく、縦横の比率が美しく設計された小振りな540×360mmへ。FDBモブラーで発売されたブックケースは、その軽くてシンプルなデザインと、モジュールによる自由度の高さによって、当時の若い世代を中心に人気を集めたと言われています。
すべて無垢材で出来たブックケースは珍しい?
両メーカーに言えることですが、コッホのブックケースは全て無垢材で作られています。これは、合板を多用することの多い“箱物家具”にしては珍しい仕様といえるのですが、理由は単純で1928年のデザイン当初は合板の技術が一般的ではなかったとか。(90年以上前ですものね…)現在も変わらず無垢材仕様を引き継ぎ、それが却って贅沢さを醸します。時を経たことで、新たに加わった付加価値ともいえます。
さらにFDBモブラーのブックケースを良く見ると、細部には程よいアールが施され、刻み組みつぎになった接合部が美しいです。これは見た目の良さだけでなく、強度を高める上でのこだわりといえます。「ベーシックなデザイン」と「組み合わせて使える機能性」は今数多くあるボックス型シェルフの礎であり、モダンさを失わない理由なのかもしれません。
アイディア次第で使い方いろいろ
コッホのブックケースは積み重ねて使う事で使い方の幅はより広がります。台輪(土台)に箱を積んで置き型収納にするのもいいですし、壁に固定することで壁掛けシェルフとしても使えます。(背面にビス穴が開いているので、位置さえ決めればビスで留めるだけで取り付け可能です)奥行きの異なるサイズ展開があるので、空間や用途に合わせてお選びください。
置き型で使う
置き型で使う場合は、床に近い位置に設置することになるので、本棚はもちろん子供用収納としてもおすすめです。オープンタイプの収納は物が見える分、出しやすく、仕舞いやすい。ケースを導入してから「子どもが率先してお片づけをしてくれるようになった!」なんてお話も。とはいえ「全部見えてしまうのはちょっと…」という場合は、小さなカゴなどを併せて使うと良いかもしれません。
ちなみに置き型の場合の耐荷重は、【縦向き:約50kg】【横向き:約60kg】を目安として推奨しています。2箱くらいであれば、壁付けせずに床置きしても問題ないです。ただ、3箱以上を積む場合は、壁に固定しておいたほうが安心かと思います。
壁付けで使う
壁付けの場合は、好きな高さに取り付けができますね。アイレベルに併せて設置することで、お気に入りの物を並べる飾り棚としても活かせます。個人的には奥行きの浅いものの方が飾り棚としてはおすすめ。置いたものが影になりすぎず、圧迫感もないので使いやすいのではないでしょうか。画像のようにグリッドを揃えて並べると程よい緊張感があり、空間が締まります。
また、耐荷重は【向きに関係なく:約30kg】を目安としています。壁だけで荷重を支えるので、当たり前ですが床置きよりも耐えうる重量は減ります。なお、耐荷重は壁の構造によっても変わりますので、取り付け前のチェックがお忘れなく。本来の能力を発揮するためにも、しっかりと長めのビスをご使用ください。
本国FDBモブラーのショールームにはアイディアが詰まっていました
最後に昨年訪れたFDBモブラーのショールームを少しだけご紹介します。実際に取り入れすい、ブックケース2-3個の組み合わせの他に、お店ならではのディスプレイや使い方のヒントがありました。
壁面いっぱいのブックケース
FDBモブラーのショールームには、壁面全体を大胆に使ったディスプレイがされています。モジュール化されたコッホのブックケースを積んだり、並べたり、縦横を変えたりと、遊び心のある変則的なコーディネートです。見応えたっぷりの迫力があります。
造作家具のように取り入れる
レジカウンターには造作の形でコッホのブックケースが使用されていました。幅狭の箱が組み込まれていますが、こちらは特注サイズでしょうか?側面から覗く刻み組み継ぎが美しいです。通常、特注サイズの取り扱いはありませんが、ご新築やリノベーションの計画段階の方は、造作家具のように取り入れてみても面白いかもしれません。
いかがでしたでしょうか。
さすが“デンマークモダンデザインの父”コーア・クリントの弟子。人間工学や機能美などの理にかなった美しさを感じます。デンマークデザインゆえの削ぎ落としたデザインが持つその奥深さを楽しんでもらえたらと思います。
代官山店 澁谷