ハンス・J・ウェグナーの椅子が、いまも選ばれ続ける理由と代表作

北欧チェアを探していると、必ず目にする名前があります。
それが、ハンス・J・ウェグナー。

数多くの名作椅子を生み出し、「椅子の巨匠」と称される存在ですが、
彼の椅子がここまで長く、世界中で愛され続けている理由は、
単なるデザイン性や知名度だけではありません。

ウェグナーの椅子には、
「人が過ごす時間」や「暮らしの関係性」そのものを支える思想が、
静かに、しかし確かに息づいています。

この記事では、ウェグナーの背景と椅子づくりの考え方、そして暮らしの中でどのように寄り添ってくれる存在なのかを、greenicheの視点で紐解いていきます。


1. ハンス・J・ウェグナーとは|椅子を暮らしの道具として考えた人

ハンス・J・ウェグナーは、1914年デンマーク生まれ。
若くして家具職人としての修行を積み、その後デザイナーとして数多くの椅子を世に送り出しました。生涯で手がけた椅子は500脚以上とも言われています。

しかし彼自身は、「新しい形を生み出すこと」よりも、
人が自然に使い続けられる椅子をつくることを何より大切にしていました。

装飾を削ぎ落とし、構造を突き詰め、木という素材の特性を正直に活かす。

その姿勢は、椅子を主役にするのではなく、
暮らしの中に溶け込ませるためのデザインだったと言えます。

 

2. ウェグナーの椅子に共通する、3つの美しさ

1. 触れることでわかる「構造の美しさ」

ウェグナーの椅子は、どの角度から見ても無理がありません。
それは、見た目を優先した結果ではなく、
構造を正しく組み上げた結果としての美しさだからです。

木と木の接合、フレームの曲線、脚の広がり。
すべてに理由があり、使い続けるほどに納得感が増していきます。


2. 座る人を選ばない「人間中心の設計」

ウェグナーの椅子に初めて座ったとき、
多くの人が感じるのは「安心感」です。

身体を預けた瞬間に、
どこか力が抜けるような感覚。

それは、人の体格や姿勢を細かく研究し、
誰が座っても自然な姿勢になるよう設計されているからこそ。


3. 時間とともに育つ「素材の表情」

無垢材を使ったウェグナーの椅子は、使い込むほどに色味が深まり、艶を帯びていきます。

それは劣化ではなく、暮らしの時間が刻まれた変化

傷や擦れさえも、家族の記憶として残っていく。そんな存在です。


ウェグナーの代表作7選 - それぞれの特徴と魅力

1. CH24Yチェア)|美しさと機能性を備えた、北欧モダンの永遠のアイコン

ハンス・J・ウェグナーが1949年にデザインし、翌1950年からカール・ハンセン&サンで生産が始まったCH24(通称:Yチェア)。
70
年以上にわたり世界中で愛され、「椅子の中の椅子」と称されるほどの不朽の名作です。

1脚の完成に必要な工程は100以上、その多くが今も職人の手仕事によって行われています。
使うたびに感じられる、人と素材、そして手仕事が織りなす心地よさ──それこそがYチェアの真髄です。

曲木のアームとY字の背もたれが生む、唯一無二のフォルム

Yチェア最大の特徴は、アームと背もたれが一体になった曲線美にあります。これはウェグナーがひとつの流れるようなラインで構成された椅子を目指したことによる革新的な試みでした。

そして、背中を支えるY字型の支柱。この象徴的なパーツから、誰ともなく「Yチェア」と呼ばれるようになり、現在では正式名称CH24よりも親しまれる愛称となっています(アメリカヤヨーロッパではウィッシュボーンチェアとも)。

デザインのルーツは、東洋の名作椅子に

ウェグナーは、Yチェアのインスピレーションを中国・明時代の椅子から得ました。
デンマーク商人がその椅子に腰かける肖像画をきっかけに、チャイニーズチェア(1943–44)を経て進化させた結果生まれたのが、CH24です。

  • 東洋の要素と北欧の感性が融合した、独自のデンマークモダンスタイル
  • 彫刻のような美しいラインと、無駄のない機能性を両立
  • 日本の空間にも自然と馴染む、やわらかで静かな存在感

こうした異文化の融合による普遍的な美しさが、Yチェアを国境を越えて愛される存在にしています。

70年以上愛され続ける理由とは?

CH24は、1949年にウェグナーとカール・ハンセン&サン社の2代目社長ホルガー・ハンセンの出会いによって生まれました。
彼らはわずか3週間でCH22CH23CH24など4脚のプロトタイプを完成。その中で唯一、今日まで生産が続いているのがCH24Yチェア)です。

  • 1950年から現在まで一度も生産が途絶えない名作
  • 世界累計70万脚以上の販売実績
  • 北欧モダンを象徴するデザインとして世界中の住宅・ホテル・公共空間で採用

その存在は、もはや家具という枠を超えた文化のひとつと言っても過言ではありません。

職人がつくる座る芸術──120メートルのコードに込めた技術

Yチェアの座面には、ペーパーコードと呼ばれる紙紐が使用されています。
一脚ごとに職人の手で編まれており、その長さは約120メートル。張り上げには約1時間を要します。

  • 張りのあるクッション性と通気性を兼ね備えた座面
  • 長年の使用にも耐えうる強度と耐久性
  • 手編みによって生まれる均整の取れた美しい模様

この手仕事の温かみこそが、Yチェアが「暮らしに馴染むアート」として選ばれ続ける理由です。

 

2. The Chair(ザ・チェア)世界で最も美しい椅子と称された名作

ハンス・J・ウェグナーが1949年にデザインし、1950年に発表された《ザ・チェア》。正式にはPP501(籐座)/PP503(フルパッド座)と呼ばれていますが、後に「The Chair(ザ・チェア)」という通称で世界的に知られるようになりました。

その洗練されたフォルムと卓越したクラフトマンシップは、世界中の建築家・デザイナー・家具愛好家たちに衝撃を与え、今なお語り継がれる北欧デザインの金字塔です。

世界が認めた、美と機能の頂点

「ザ・チェア」が伝説となったきっかけの一つが、1960年のアメリカ大統領選テレビ討論会。ジョン・F・ケネディとリチャード・ニクソンという歴史的対決の舞台で、2人が座ったのがこの椅子でした。

そのとき、アメリカのメディアが「世界で最も美しい椅子」と絶賛。一夜にしてThe Chairの名は世界に広がり、ウェグナーの評価を決定づけました。

どこから見ても美しい、完璧なプロポーション

The Chairの最大の特徴は、一切の無駄がないシンプルな構造と、流れるようなフレームの美しさ。

  • 滑らかな曲線を描くアームと背もたれの一体型フレーム
  • 熟練の木工技術によって実現されたジョイント部の滑らかな接合
  • 360度どこから見ても美しい後ろ姿

まさに、椅子そのものが彫刻のような存在。空間に静かに佇みながら、確かな存在感を放ちます。

座ることで完成する人と家具の調和

ウェグナーは、「ザ・チェアは、人が座って初めて完成する」と語っています。肘を自然に添えられるアーム、背中をやさしく支える背もたれ、身体に沿う座面──すべてが人間の動きと調和するよう設計されています。

つまりこの椅子は、美術品であると同時に、心地よく生きるための道具なのです。

 

3. PP19 ベアチェア包み込まれるような安心感をデザインした北欧の傑作

ハンス・J・ウェグナーが1951年にデザインしたラウンジチェア、PP19「ベアチェア」。その名の通り、まるで大きなクマに包まれているかのような、安心感と柔らかさを感じさせる椅子です。

北欧らしい温もりと、有機的でやさしいフォルム。そして、座る人の身体にしっかりと寄り添う構造は、まさに暮らしの居場所を形にした一脚。名作チェアが数多く存在する中でも、最高峰の座り心地と称される逸品です。

PP19が「ベアチェア」と呼ばれる理由

このチェアが「ベア」と呼ばれるようになったのは、大きなアームの形状がまるで両腕を広げているように見えるから。座る人を包み込むような優しさと、安定感のある佇まいが評されたことに由来します。

  • 丸みを帯びた背もたれとアームが、身体をやさしくホールド
  • ウレタンフォーム+スプリング構造の張りぐるみ仕様で、柔らかさと反発力の絶妙なバランス
  • 角度のついた座面とハイバックが、自然とリラックス姿勢へ導く設計

「座った瞬間に、重力から解放されるような感覚」──それが、多くの人がこの椅子に魅了される理由です。

1950年代から続く、変わらない普遍性とクラフトマンシップ

PP19は、もともとウェグナーが究極のラウンジチェアを目指して生み出した椅子。発表当時は非常に高価で、限られた数しか製造されなかったため「幻のチェア」とも呼ばれていました。

現在は、ウェグナーの哲学を継承する家具工房PP MøblerPPモブラー)が、彼のオリジナル設計図に基づき、1脚ずつ丁寧に製作しています。

  • 無垢の木材を手加工で削り出すフレーム
  • 職人による張りぐるみの技術
  • 数十年単位で使い続けられる構造設計

時を超えて愛される理由が、細部にまで宿っています。

 

4. CH290シリーズ|構造が美しさになる、静かな名作

控えめで誠実、それでいて凛とした存在感。
CH290は、ハンス・J・ウェグナーが1963年に手がけたソファです。

一見すると装飾を極力そぎ落としたシンプルな椅子。しかし、その佇まいには、長く使われることを前提にした“思想”と“構造”が、静かに息づいています。
当時から評価は高かったものの、量産向きではない構造ゆえに長らく知られる存在ではありませんでした。近年、カール・ハンセン&サンによって復刻されたことで、ウェグナーの設計思想を色濃く伝える一脚として、あらためて注目を集めています。

■ 線で魅せる、端正なプロポーション

CH290の美しさは、派手さではなく“線”にあります。

  • 細身で均整の取れたフレームライン

  • 座と背をやさしく受け止める、布張りの面

  • 前後・左右、どこから見ても破綻のないシルエット

無垢材フレームが描く直線と、クッションの柔らかな曲面。その対比が、空間に落ち着きと緊張感の両方をもたらします。

■ 構造そのものが、座り心地をつくる

CH290は、いわゆる“ふかふかのラウンジチェア”ではありません。
しかし、腰を下ろした瞬間に感じるのは、不思議な安心感です。

  • 座面と背が適切な角度で身体を支える設計

  • 木部フレームがしなやかに荷重を受け止める構造

  • 長時間座っても疲れにくい、張りと弾力のバランス

ウェグナーが追求したのは、「素材に無理をさせないこと」。
木は木として、布は布として最も力を発揮する形が、そのまま座り心地につながっています。

生活のなかに溶け込みながら、使う人の時間を受け止めてくれる。
CH290は、ウェグナーが大切にしてきた「家具は人の生活を支える道具である」という考えを、最も端正なかたちで体現した一脚です。

派手ではない。けれど、長くそばに置きたくなる。
そんな“誠実な美しさ”を求める方にこそ、選んでほしいソファです。

5. PP68|日常の食卓を豊かにする、ウェグナー晩年の実用的ダイニングチェア

PP68は、ハンス・J・ウェグナーが長時間座っても快適なダイニングチェアを目指して設計した、実用性と美しさを兼ね備えた一脚です。

デザインの原型は、実はデンマーク国鉄(DSB)フェリー用のチェアとして描かれたものでした。しかし実際には別モデル(PP208)が採用されることに。ウェグナーはその後も改良を重ね、1987年にPP MøblerPPモブラー)から正式にPP68として製品化されました。

日常の食卓でこそ力を発揮する、ウェグナー晩年の答えとも言えるチェアです。

食卓を囲む時間を、もっと快適に

PP68が他の名作チェアと異なるのは、日常的な使いやすさを徹底的に追求している点にあります。

  • 短めのアームレストがテーブルの天板下に収まりやすく、コンパクトな動線を確保
  • アームの先端をテーブルに引っかければ、床掃除もしやすい設計に
  • 背もたれと座面の絶妙な角度が、長時間の食事や会話も快適に

ウェグナーはこの椅子を、長い夕食と、心地よい会話のための椅子として設計しました。機能性が高く、かつ人の動きや暮らしに寄り添う構造は、まさに彼の哲学を体現しています。

素材・構造へのこだわりが生む、耐久性と美しさ

PP68は、見た目以上に非常に高い強度を持っています。

  • 各接合部(ホゾ組)は、1トンの引張りにも耐えられる強度試験をクリア
  • 北欧産の無垢材を使用し、PPモブラーの熟練職人によるハンドメイド仕上げ
  • 張地はペーパーコードまたはレザーから選択可能(モデルPP68 / PP58

機能性と耐久性、そして職人の技術が融合することで、使い捨てではなく、一生付き合える椅子としての価値を放っています。

 

6. PP550 ピーコックチェア|背中に羽を広げたような優美なフォルムが心をとらえる名作

PP550「ピーコックチェア」は、ハンス・J・ウェグナーが1947年にデザインした、北欧モダンの精神とクラフトマンシップが息づくラウンジチェアです。

その名の通り、背もたれのスポークが放射状に広がる姿はまるで孔雀(Peacock)の羽のよう。視覚的に美しいだけでなく、人間工学的にも背中を優しく包み込むよう設計されたフォルムが、他の椅子にはない特別な座り心地をもたらします。

手仕事の温もりと彫刻的フォルムの融合

ピーコックチェアは、見た目の華やかさとは裏腹に、一切の装飾を排したシンプルな木工技術の結晶です。

  • 背もたれのスポークは、角度を少しずつ変えながら美しく放射状に配置
  • 座面にはペーパーコードを手編みで張り込み、柔らかなクッション性を実現
  • アームと脚部は無垢材から削り出され、職人の手で一つひとつ丁寧に仕上げ

それらのすべてが一体となり、視覚美 × 構造美 × 機能美を同時に成立させた稀有な一脚となっています。

見る角度によって印象が変わる、静かな主張

ピーコックチェアは、正面・斜め・後ろ姿など、どこから見ても異なる美しさを楽しめる椅子です。

  • 正面からは広がりを感じる優美な羽根
  • 横からは座と背の接続部の造形が強調され、彫刻のよう
  • 後ろ姿からは、背中をしっかりと支える構造の美が際立つ

空間の一角に置くだけで、静かな主役としての存在感を放ちます。

豆知識:なぜピーコックと呼ばれるのか?

この椅子の呼び名である「ピーコック(孔雀)」は、デザインを見た仲間の家具デザイナー、フィン・ユールによって名付けられたもの。ウェグナー自身はこの呼び方を好まなかったとも言われていますが、その名が広まり、今日ではデンマークデザインを象徴する一脚として知られています。


7. CH25 |ペーパーコードに革新をもたらした、北欧モダンの金字塔

CH25は、ハンス・J・ウェグナーが1950年に発表した初期のラウンジチェア作品のひとつでありながら、今なお多くの人々に選ばれ続けている北欧モダンの象徴とも言える一脚です。

大胆なラインで構成された彫刻的なフォルム。
座と背に張られた幾何学模様のように美しいペーパーコード。
そして何より、「心地よさ」という名の居場所を提供する座り心地。

CH25は、家具が持つ実用性芸術性の境界を軽やかに飛び越えた、まさにウェグナーの先見性を体現する名作です。

フォルム素材の革新性が同居する椅子

CH25のフォルムは、当時のラウンジチェアとしては非常に斬新で、背もたれから脚へと流れるような一体構造は、椅子でありながら建築的な佇まいを持ちます。

注目すべきは、そのデザインだけではありません。
ウェグナーはこの椅子の座と背に、当時ほとんど家具には使われていなかったペーパーコードという素材を採用しました。

  • 戦時中の代替素材として使われていたペーパーコードに、耐久性と美しさを見出したウェグナー
  • 自然な風合いと手編みの温かみが、無垢材のフレームと絶妙に調和
  • 通気性も高く、長時間座っても快適

この素材使いの先駆的な試みにより、ペーパーコードという技法自体がウェグナー作品の代名詞となっていきます。

一脚に込められた、職人の“10時間“400メートルのコード

CH25のペーパーコードは、一本一本が熟練職人の手によって丁寧に張られています。
完成までに必要な時間はおよそ10時間。使われるコードの長さは、なんと400メートルにも及びます。

  • 2本のコードを交差させる独自の張り方により、耐久性と意匠性を両立
  • 張り終えた座面はまるで編み模様のように美しく、年月とともに柔らかい艶が生まれる
  • 構造の美しさを引き立てる「見せる背面」もCH25の大きな魅力

このように、見えない部分にまで手を抜かない用の美が、CH25という椅子に深い存在感を与えています。

まず一脚選ぶなら|迷ったときの考え方

もし、
「北欧チェアを初めて選ぶ」
「長く使える椅子を探している」

そんな方であれば、暮らしの中心になる場所から考えてみてください。

  • 家族が集まるダイニング
  • 一人の時間を過ごす書斎
  • 何気なく腰掛けるリビングの片隅

その場所に合った一脚を選ぶことで、椅子は単なる家具ではなく、暮らしの一部になっていきます。


まとめ|一生付き合える「本物の椅子」と出会うということ

ハンス・J・ウェグナーの椅子は、単なる座る道具ではなく、暮らしの質を変えるパートナーです。

  • 見た目の美しさと機能性が共存
  • 北欧の哲学に裏打ちされた思想
  • 永く使うことで生まれる味わい

そんな椅子がひとつあるだけで、家で過ごす時間がもっと特別なものになる。

greenicheでは、あなたの暮らしに本当にフィットする一脚をご提案しています。

 

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