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「現代における、お茶の価値を創造する」
Tea Progettista・岡部宇洋さんに聞く、これからの"日本茶"とは

グリニッチ代官山で実施予定のお茶のワークショップ「涼やかに冷茶を楽しむ」で講師をつとめてくださる、岡部宇洋(オカベタカヒロ)さん。「Tea Progettista」という肩書きで日本国内、そして世界に向けて、様々なアプローチから活動されています。いつも元気いっぱいで気さくな岡部さんに、改めて「岡部さんとお茶」についてお話を伺ったところ、溢れんばかりの熱い想いとビジョンを語ってくださいました。

静岡県出身の岡部さんにとって、お茶はいつも暮らしの中にある、日常の飲み物だったそうです。 

「お茶王国・静岡では、朝・昼・夕・晩と1日で4回お茶を飲むのは普通のこと。今思うと美味しいものを飲んできましたし、そういう文化の中で育ってきました。だから東京に来た時は、お店で飲むお茶が美味しくなかったり、友達の実家に遊びに行ったときに「お茶飲みます?」と聞かれて出てきたのがコーヒーだったり、暮らしにおけるお茶の地位が低いことにとても衝撃を受けました。」

 新卒で入った会社は、大手ゼネコン。学生時代のある経験から、まちづくりを志すようになります。 

「大学院生の時にデンマークを訪れたのですが、その街並みが本当に美しく感動的だったんです。『すごいな、日本の街並みもこんな風に美しく、文化度の高いものになったら良いな』と思い、まちづくりや都市開発に興味を持つようになりました。そこからお茶を仕事に、と思ったのは、『文化的なこととビジネスが両立するような仕事をしたい』という思いがあったからです。会社を辞めて独立してからも、空き家の再生プロジェクトに関わって地元の人たちと何かを新しいことをしたり、好きなまちづくりには携わっていたのですが、そこからさらに『日本文化をもっと深めて、何か面白いことができないかな』とずっと考えていたところ、ある茶道家さんと出会ったんです。彼とは同世代だったこともあり意気投合して、色んな企画を一緒にやりました。『海外へゲリラ茶会をやろう』と言って、海外の公園で急に風呂敷を広げてお茶を立てる企画もやりましたね。そんなご縁から茶道を学んだり、色んなお茶や食のプロの方々と一緒に海外や同世代の方向けにお茶会をしたり、どんどんお茶の世界に入っていった感じです。日本文化の中でもお茶に惹かれたのは、もちろん茶道家さんとの出会いがきっかけではありましたが、やっぱり静岡のお茶文化が僕の原点だからだと思います。」

お茶の仕事は、海外と日本国内が半分半分の割合。最初は海外に向けた企画や販売から始まり、コロナ禍で国内の仕事も増えましたが、仕事の中心は今でも海外に置きたいと言います。

「日本での仕事は、『社会的意義』の気持ちが強くあります。コロナ禍でお茶業界が打撃を受けてしまったり、お茶の価格は下がる一方。後継者がいない、残すべき茶畑がある...日本のお茶がしっかりとした値段で売られていくカルチャーを、いろんなアプローチで作っていくぞ!と、自分が何か社会にできることはないか、という気持ちでやっている部分が大きいかなと思います。

一方、海外の仕事は純粋に『自分がやりたいこと』。前の会社でも海外勤務をしていたり、海外で働くことが好きなんです。僕の性格的に、外国の人との方がコミュニケーションが取りやすいみたいで。ストレートな言葉遣いだけど、表面的な会話じゃなくて、深みがあって感情がこもっていて...熱く感情をぶつける感じで人と関わりたい僕としては、それが心地いいんですよね。また、海外だから生まれる発想もあると思っていて、そこで生まれた新しいカルチャーを日本に持ち帰ったり、他の国に広めることもできる。海外に向けてお茶の魅力を広めることは、日本国内のお茶の価値を高めることにも繋がります。」

ヨーロッパ、アジア、アメリカなど、「海外」と一口に言っても、国によってお茶の受け入れ方、捉え方は全く違います。

「中でも北欧の人々は、日本茶との相性が良いと思いますね。コーヒー文化があるからだと思いますが、飲み物に対してしっかりお金を払って、好みを深めたり楽しむカルチャーが、北欧には根付いていると感じます。甘みを足すとか、フレーバーが強いものとかではなくて、素材を楽しむことに価値を感じる人々なので、産地や作り手によって味や香りが異なる日本茶は、受け入れられやすいです。一方アメリカだと、「抹茶」「健康」とか、誰もがわかりやすい味とか魅力に興味を示す人が多いです。日本茶の魅力の伝え方も、国によって変わりますね。」

お茶のレクチャーイベントや茶葉の輸出などが海外向けの主な活動ですが、そうした活動を通して岡部さんが一番やりたいことは、「海外にネットワークをつくること」なのだそうです。

「世界各地、訪れた先で感性が合うカフェやお茶屋さんに出会うと、自然と仲良くなるんです。イベントをやったり、うまく行けば茶葉を卸すこともあります。でも、輸出で儲けよう、とは今はまだ考えていないですね。一番やりたいしやるべきだなと思うのは、日本茶を発信してくれる拠点、それも自分が『イケてる』と思う拠点を世界各地に作って、ネットワークをつくることです。日本茶のコアな価値、表面的ではない本来の価値や魅力を、その人なりに引き出して伝えてくれる人。そんな、自分が心から信頼を置ける人たちと繋がってできたネットワークが、日本茶の価値をもっと高めると思います。自分一人でできることなんて、たかが知れていますもんね。」

一方で日本国内では、「Chastronomy(茶ストロノミー)」「一般社団法人淹茶計画」という主に2つのプロジェクトに現在携わっておられます。岡部さんはご自身の肩書きを、イタリア語を組み合わせて作った「Tea Progettista」としていますが、これは岡部さんのプロジェクトへの関わり方を表すのにぴったりな言葉だといいます。

Progettistaはイタリア語で、プロジェクトを立ち上げて、クリエイターと組みながら成功まで導く人、という意味があります。僕自身の働き方はまさにそのような感じで、プロジェクトを立ち上げて、裏ではなくそのど真ん中に入って行って、クリエイターやデザイナーともコミュニケーションをとりながらプロジェクトのエネルギーになるような働きをしています。『プロデューサー』という言葉ではカバーできない気がして、『Tea Progettista』と名乗っています。」

「一般社団法人淹茶計画」では、これまでにいくつものプロジェクトに携わってきた経験から、社団法人の形を取りました。長く続けるからこそ、価値があるプロジェクトだと考えたからです。

「プロジェクトって立ち上がっても、お金が回らないとか、誰かが疲弊してしまうとかで、スッとなくなってしまうものも多くあります。『淹茶(「茶葉を選び、茶器を選び、淹れ方を考えて、茶を淹る」という日本茶を淹れる時に行われる行為に対して、独自に名付けたもの)選手権』をやろうというアイデアが出たとき、それは一回きりじゃ意味がないと思ったんです。例えばコーヒーで技術やパフォーマンスを競うような大会は、それがあることで次世代が育ったり、そこを目指して研究する人がいたり、さらに研究して見つけた新しいコーヒーの価値をプレゼンしてそれが新しいトレンドになることもあります。お茶もやるなら、そこを目指さなければ価値は生まれない、と思いました。お茶を淹れるプロがいることをもっと知ってほしいし、その人たちがきちんと稼いでいける社会を作りたい。そういう団体を立ち上げよう!と考えました。普通の寄り合いだと23年で終わってしまう可能性があったので、社団法人を作り、長く続けていく意思をきちんと伝えてまわることで、協賛や補助金をいただき、長いビジョンを持ったプロジェクトにすることができました。」 

「現代におけるお茶の価値を創造する」というビジョンを掲げて活動されている岡部さん。この「現代における」というのは、お茶ならではのキーワードでもあります。

「お茶って、時代時代でその価値が変わるんですね。お茶の起源と言われる3,000年前の中国では『疲労回復』『視力回復』といった薬のような役割だったのが、しばらくすると『やっぱり美味しく飲みたい』と、いろんな食材と混ぜて美味しく飲むための工夫をする等、お茶はカルチャーとして発展します。皇帝の献上品となってハレの文化になることもあれば、お茶のまわりの茶器などと合わせて芸術の対象になることもありました。日本に来ると、禅の修行の際の『眠気覚まし』の役割として飲まれたり、賭け事の対象になった時代もありました。乱世の時代、千利休は躙口(にじりぐち)のついた茶室をつくりますが、そこを通るためには刀を取らないといけないため、対等なコミュニケーションがとれる場所でもありました。お茶を飲み、落ち着いたところで、対話をする。お茶はコミュニケーションのツールとしての役割もあったのです。時代時代でお茶の価値は変わって、その都度新しいイノベーションが起きて、その時起きた問題を解決してきました。それは現代においても同じで、『この時代に寄り添う価値は何か?』という問いかけをしていく。僕がやっていることはそれに尽きますね。」

日本人に暮らしに馴染みすぎているが故に、埋もれてしまって、コーヒーやお酒など他の嗜好品に比べて価値が見えづらいお茶。「現代におけるお茶の価値って、なんだろう」。それを考え続け、動き続けることが、新しいお茶の価値を創ることに繋がります。 

「今回のワークショップでも飲んでいただきますが、コーヒーのドリッパーを使ってお茶を淹れるというのも、現代の日本人にはアリな淹れ方だと思うんです。コーヒーって好きな人が多いし、お茶より気軽な感じがしますよね。急須はなくてもドリッパーはある、という人は多いんじゃないかな。それに、ドリッパーで淹れると、100%のお茶のポテンシャルは出せないけれど、あっさりしたお茶になるので日常使いにもぴったりだし、海外の人にも受け入れられやすい淹れ方なんです。」

これまでは「価値」ではなかったものが、現代では「価値」になることもあります。

「近年、『萎凋茶(いちょうちゃ)』と呼ばれる日本茶が注目されていますが、これは昔の価値観で言うと『悪いお茶』。微発酵することで生まれる独特な香りが、『ついてはいけない香り』としてマイナスな評価をされていたお茶なんです。でも、現代の人たちは、面白い香りとか香辛料に慣れているので、萎凋茶を美味しいと感じるんですね。現代のライフスタイルや価値観、味覚に受け入れられるお茶は何か?という視点があれば、これまで価値でなかったものを新しい価値にすることもできるし、逆にこれまでのやり方のままだと、価値はそれほど高めることができないと思います。」

"今"の消費者に寄り添う価値を生み出す。消費者と作り手を繋ぐのは、ワインだとソムリエ、コーヒーだとバリスタがその役割を担いますが、お茶の世界ではその「繋ぎ手」の存在はまだまだ少ないそうです。

「お茶業界は、作り手から消費者まですーっと流れてしまうんです。農家さんがお茶を作って、それを茶師に渡して、販売される。でも、ソムリエやバリスタのような「繋ぎ手」の存在になれるのが、先ほどの淹茶選手権に出るようなお茶を淹れるプロの人たちなんです。そのような人たちがいるということ自体、業界内でもまだまだ知られていないので、認知を上げていきたいと思います。今はまだ全国でも参加者は少ないですが、これから増えていくとは思います。コーヒー業界で活躍する人の中には、コーヒーを研究し尽くした後、お茶にも興味を持つ方がある一定数いるんですね。だから、コーヒー業界へのPRもとても大切。コーヒーは共存すべき相手であって、ライバルではない。僕だって、コーヒーも好きですからね(笑)。コーヒーが有料でも、お茶は無料のお店って、静岡県内でもたくさんあるんです。お茶だってソフトドリンクとしての価値がある。お茶でしっかりお金をとれるお店がどんどん増えてほしい。現代にあったお茶の価値を創ることで、それも実現できると思います。」

-profile-
岡部宇洋さん
静岡県出身。2015年より茶道を習い始めたのをきっかけに「現代におけるお茶の価値を創造する」活動を多々行う。海外でのお茶のレクチャーイベントや輸出などを行う他、フィンランドのお茶専門店「Nari Tea」の立ち上げ等に携わる。その他、茶畑でのレストラン事業や、お茶専門カフェのプロデュース等を行っている。

-ワークショップ概要-「涼やかに冷茶を楽しむ」

【日時】
・8月27日(土)(1回目:11:30〜13:00/2回目:16:00〜17:30)
・8月28日(日)(1回目:11:30〜13:00/2回目:15:00〜16:30)
※各回定員6名まで

【内容】

・「最高の一杯」の見つけ方
…自分好みのお茶「最高の一杯」を探すため、お茶の製法/産地傾向/品種についてのレクチャー

・夏茶の淹れ方、楽しみ方
…「水出し、オンザロック、氷だし」3種類の淹れ方を飲み比べ
…ドリップでお茶を淹れてみよう

※静岡県富士市・秋山園の茶葉を使用

【参加費】:4,000円

【お申込み方法】

こちらの特集ページよりお申し込みいただけます。

 

テキスト:岡田 智理

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