「人々を幸せにする」ボーエ・モーエンセンの家具

一度はその役目を終えたビンテージ家具。私たちは、作り手の考えや想い、それぞれの家具が持つ魅力や構造を十分に理解してリペアする事で、また新しい命を吹き込んでいきます。そして生活の中の大切な道具・財産として永く使っていただけるように、新しい使い手へと繋げる事。それが私たちグリニッチの使命の一つであると考えています。


今回はリペアを終えたばかりのビンテージ家具の中から、北欧家具デザイナー4大巨匠の一人「ボーエ・モーエンセン」の作品と 一部現行品の商品をピックアップしてご紹介させていただきます。


モーエンセンは、グリニッチが総代理店を務めるFDB Mobler(デンマーク生活協同組合家具部門)の初代プロダクトマネージャーを務め、その後、ソボー・モブラーやフレデリシア社など多くの家具メーカーにデザインを提供し、デンマークデザインの発展に大きな影響を与えた人物の一人です。そのキャリアの中でも初期にデザインされ、モーエンセンの原点ともなっている商品を時系列を逆にしてご紹介させていただきます!


「家具は人々を幸せにする」を信条に、庶民の為に日常使いできる、丈夫で長持ちするように堅実な家具をデザインし、人々に心の豊かさを与えることを目標としていたモーエンセン。その思いは、私たちグリニッチのモノづくりに対する思いと重なる部分が多くあり、私たちも家具を通して、選ぶ楽しさや使った先にある幸福感をご提供できる存在でありたいと思っています。


リペアすることで、当時のモーエンセンの思いを現代の人々へ繋ぐ事ができれば 私たちもとても嬉しく思いますし、気に入ったデザインの家具が作り出す空間から広がる心の豊かさは、 1年後、5年後、10年後、いろんな形であなたのライフスタイルをより良いものにしてくれるはずです。


これから先の人生のパートナーとなりえる家具をモーエンセンの作品の中から選んでみてはいかがでしょうか。


Borge Mogensen(ボーエ・モーエンセン) 1914-1972

1955年 当時、親交があったフレデリシア社とタッグを組み、家具製作を開始する

1952年 FDB Moblerの次なるパートナーSoborg Mobler(ソボー・モブラー)から、

シリーズの家具をリリース

1950年 8年間務めた、FDB Mobler退社。独立しデザイン事務所を設立

1950年 J6をリデザインし、FDB Mobler看板商品となるJ52Bをリリースし

シリーズとしてロッキングチェアJ52Gも同時リリース

1947年 シェーカー教徒が教会で使っていた椅子をリデザインした、J39をリリース

1942年 28歳の若さで、FDB Mobler初代プロダクトマネージャーに就任

1934年 20歳で家具職人のキャリアをスタートし、親友のウェグナーと共にコーアクリントを師事

1914年 デンマーク西部の都市オールボーに生まれる

1914年デンマーク西部の都市オールボー生まれ、デンマーク王立アカデミー建築家でコーア・クリントに師事し 彼の助手としてデザインを学び、マイスターの資格を得る。 同い年で親友のウェグナーとは時に協力し商品を作ったり、競い合うなど、公私ともに非常に親交が深かった。 1942年からはFDBモブラー(デンマーク生活協同組合家具部門)のプロダクトデザインマネージャーとして活動し、 「庶民の為の家具を造ってほしい」というFDBモブラーからの依頼を受け、簡素なデザインとペーパーコードによる座面という 家具の知識がなくても組み立てができる代表作であるJ39をデザインし、人々に職を確保させるという形でこの依頼を達成した。 1950年にFDBモブラーを退職、その後も自身の事務所を構え、FDBモブラーで培ったアメリカのシェーカー教の家具を リ・デザインした直線的で力強い家具を数多く制作している。 特にストレージ系の家具に関しては多くデザインし、model145やキャビネットなどが数多く生産されている。 代表作に『J39』『ハンティングチェア』『スパニッシュチェア』などがある。


Borge Mogensen × Soborg Mobler 1952 - 1966

Soborg Mobler Book Case

Soborg Moblerは、モーエンセンやハンス・J・ウェグナー、フィン・ユールなど、名だたるデザイナーが新作を発表する 「コペンハーゲン家具職人ギルド展示会」という家具職人の新作展で、デザイナーと共に家具を制作し発表するなど、 当時からデンマークデザインの中心に位置した家具メーカーです。


創業から126年経った現在でも家具の制作を続けていて、その伝統技術や知識などを広めるため 一般の人々へも会社の施設を開放しているほど。長年培ってきたものを商品に反映するだけでなく、 それを後世に残すことも目標としています。


モーエンセンも絶大な信頼を置きデザイン提供していた、Soborg Moblerからリリースしたシリーズは、 キャビネットやシェルフ、ビューローなど数十種類が展開されていました。10年以上にも渡り販売され続けられていたこのシリーズは、当時の人々から高い人気があったことが伺えます。


シリーズの中の一つである、このブックケースは上部と下部がセパレートになったタイプで 重ねて使えば立体的な空間となり、横へ並べて使うことで平面的な空間を演出してくれます。


使いやすさや、配置を変えて使う楽しみ、組み合わせによって広がる使い方の幅などを考え、モーエンセンはこのブックケースをデザインしたのではないでしょうか。あえてセパレートタイプにした理由からも、モーエンセンの使い手に対する思いを感じ取ることができます。


このBook Caseから感じる、日常の中の楽しみや使うほどに醸し出される魅力を是非楽しんで味わっていただければ幸いです。

Soborg Mobler Low Cabinet

Soborg Moblerよりリリースされたモーエンセンの家具は、直線的で強いラインの家具が、とても多く作らています。


モーエンセンがキャリアをスタートした時から師事していたコーア・クリントの教えの一つ、「人間が可能な限り自然な動きや状態で使えるように考えて設計し、生活のための美しく良質な家具を堅実にデザインする」という事が、基礎となっていたのでしょう。


それぞれの家具に適したサイズ感や、取っ手のつくり、内部構造など、ひとつひとつしっかりと考えられ設計された家具だからこそ 当時も今も、人々の生活に自然と溶け込んでくれるのだと思います。


キャリアの中でも中期から後期にかけては、大胆なまでに低い座面と難しい構造を持つ斬新な「ハンティングチェア」などがあり、 初期のデザインとは対照的なデザインに見えます。だけれど実用性や構造に対しての考え方は同じはず。 モーエンセンはこのチェストのように、シンプルで堅実なデザインをいくつも生み出したことで、 後に、難しい構造の作品を形にできたのではないでしょうか。


このLow Chestは、両開きの扉がカギを閉めたときでも動かないように、グレモン錠という上下の2点て固定する鍵の仕組となっているので、鍵をかけた時でも扉が浮いたりする心配もありません。


半世紀も前にデザインされた家具ですが、長い歳月が経過した今でも大切なものを安心して しまっておける役目をきちんと果たしてくれます。


私たちグリニッチでは、モーエンセンの家具の特徴でもある、整ったラインや作りをそのまま残せるように丁寧にサンディングを施し、ビンテージならではの雰囲気を大切にしてリペアを施しています。


このチェストから当時のモーエンセンの思いも感じながら、ご愛用いただけると嬉しいです。

Soborg Mobler Bureau Model145

Soborg Moblerからリリースされた家具の中でも、こちらのビューローは現在でも市場に多く出ており、シリーズの中でも特に人気が高かった事を感じます。


見た目も美しく、機能性もよい家具をデザインすることは、決して容易なことではなかったはず。

いくら頭で思い描いても、機能性については実際に使ってみないことには分かりません。


モーエンセンは「造った家具を確認するには、自分で実際に使用してみるのが一番だ」と考え、 コペンハーゲンの中心地から車で30分程のところにある、緑豊かな土地に建てた自宅で、 デザインした家具を配置し、実際に使用していました。


その自邸を「実験室」と呼び、モノづくりに徹底していたモーエンセン。

今、私たちが多く目にするモーエンセン家具は、この自邸から生まれたものがたくさんあり、 名作のスパニッシュチェアもこの自邸で生まれた作品の一つです。


現在もたくさんの家具や図面がそのまま保管されており、モーエンセンにとってこの自邸が 家具をデザインする上で、とても大切な場所だった事が伺えます。


モーエンセンと日常を過ごし、何度も改良を加え生まれてきた家具たち。


こちらのBureauにもそんなモーエンセンの気持ちが各所に反映されていることが感じ取れます。


デスク天板を閉じているときは、とてもシンプルな印象で 自然と部屋に馴染み、 テイストを変えても、それに対応できるだけのデザイン性が十分あります。


デスク天板を開けてみれば、上部に設置された引き出しや棚など、天板のスペースを広々と使えるように設計され、 天板の高さも750mmとなっていて、デスクと合わせる一般的なチェアの高さにちょうど良く合います。


使い手のことを考え抜き、見た目の美しさ、利便性を兼ね備えた作品を多く生み出し、 そしてそれが実際に人々の生活に根付いていたからこそ、モーエンセンが「庶民の味方」と言われるのではないでしょうか。



Borge Mogensen × FDB Mobler 1942 - 1950

FDB Mobler J39 Red

1947年、モーエンセンの代表的な作品の一つ、FDBモブラー J39はリデザインから生まれました。


モーエンセンが家具作りにおいて貫いた事のひとつに、コーア・クリントの教えでもある 「今までにあった家具を、よりよいデザインとして完成させる」(=リ・デザイン)の精神があります。


歴史あるデザインを見直して、生活から実用性を学び、その時代の生活に馴染むデザインにする事。

モーエンセンはこれらのことを考えて、リデザインした作品をいくつか発表しています。


代表作に、旅先のスペインで見かけた伝統的な椅子の様式を現代的にリデザインしたスパニッシュチェアや、 18世紀の英国椅子をリデザインしたウィングバックチェアがありますが、これらをリリースするよりも約10年前から FDBモブラーで、リデザインを既に形にしていたのです。


このJ39は、1942年にモーエンセンがFDBモブラーに入って与えられた「庶民の為に、末永く愛される安価で高品質な椅子を」という課題に対して 5年の歳月をかけて作り上げた作品です。


必要最低限なパーツによる簡易的な組み立てと手編みが必要なペーパーコードを使用することにより、 市民にも手伝いを求め、歩合制により賃金を支払い、市民の生活を確保しました。


組み立てに参加した市民には郵便局員や八百屋など、 本来、家具職人とは関係のない人まで参加し、さらにモーエンセンは導入されたばかりの大型工具を使用し可能な部分を工業化することで、徹底的に生産コストも抑えました。


庶民の為だけに家具を作るのではなく、その家具に携わる人々も幸せにする。 モーエンセンは家具を通して、全ての人たちをより豊かにしたかったのではないでしょうか。


デザインは、アメリカのシェーカー教徒が教会で使っていた椅子をその当時に合わせてリデザインしたもので、 この頃、リデザインを実現します。


シェーカー家具の特徴でもあるまっすぐに伸びた脚や 組み立ての際に特別な工具などを必要としない 簡素な造りをそのままに、一切の無駄をなくした 「近代北欧家具デザインの父」であるクリントの正当な弟子として その教えの全てを結集したデザインになっています。


簡素な組み立てといっても木と木の接合はしっかりとしており、さらに枠を段違いに取り付けることでペーパーコードの座面に傾斜が付き、 深く腰掛けた時に体への負担が少ないよう配慮されています。 そんな背景や機能的な椅子だからこそ、「人々の椅子」として デザインが完成してから70年以上経った今でも生産され、愛され続ける名作椅子なのではないでしょうか。


現行品ではそれぞれのテイストに合わせられるように何種類かの カラーバリエーションもありますが、今回入荷したビンテージのJ39は、赤色のフレームタイプです。 赤い塗装は経年変化することで色味が薄くなり、落ち着きのある柔らかな印象へと 変化し、赤い塗装の下からは木目の表情も見て取れます。 長く使う事で醸し出された魅力は、 ビンテージでしか感じることのできない特別なもの。


モーエンセンの家具に対する思いが、すべて詰まったJ39。昔も今もこれからも、人々に愛され続けるモーエンセンの代表的な作品の一つです。


FDB Mobler J52G Rocking Chair(現行品)

FDBモブラーの商品名の数字はデザインされた順番につけられています。

リデザインで注目を集めたのはJ39ですが、このJ52はもともとJ6としてデザインされたものをリデザインしたもので、J39よりも昔にモーエンセンが先に手掛けていたチェアです。


1940年代、当時はまだ職人が一点一点家具を作るの事が主流で、家具はとても高く、普通の人ではなかなかすぐに買うことの出来ないものでした。「家具は人々を幸せにする」と信じていたモーエンセンは普通の若者でも良質な家具を買えるようにしたいという夢を持ち、それをかなえるために、モーエンセンはFDBモブラーの初代代表になりました。


モーエンセンとFDBモブラーとの関係は非常に良く、今まで大量生産出来なかった環境を変え、FDBモブラーの基盤をつくっていくことになります。


このJ52は当初J6としてデザインされ、その後座面の変更やディテールの変更があり、品番が変更になりましたが、FDBモブラーの一番はじめの広告にも登場し、その後もポスター等に採用されるなど看板的な商品として人気を集めました。


コーアクリントの教えから、J52はイギリスのウィンザーチェアにヒントを得て、シンプルで美しく作りやすい、当時のデンマークの世相に合わせリデザインされたスポークバックチェアです。


J6からJ52になった際に新しくロッキングするタイプのJ52Gも開発され、通常タイプのJ52Bと共に、FDBモブラーの代表的な椅子として時代を牽引しました。FDBモブラーの顔であったデザインなので、最後まで残し一番はじめに復刻された中のひとつとなっています。


「買いやすい価格で、見た目も美しく、しかも丈夫で機能的」というFDBの命題と「家具は人々の生活を向上させる」というモーエンセンの信念が形になったこのJ52、そのモノづくりに対しての精神は後に発表される、スパニッシュチェアやハンティングチェアなど全ての作品の大きな基盤となり、モーエンセンのキャリアを大きく飛躍させた原点の一つです。


私たちグリニッチも、FDBモブラーを代表するこのJ52を取り扱うことができて、本当に光栄に思っていますし、 チェアに秘められたモーエンセンの思い、それも一緒に皆様へお伝えできれば大変嬉しいです。